経理マンのためのIFRS情報局

IFRS導入プロジェクトに携わる公認会計士が、これまでの経験や新聞記事を基に情報発信

8. 開発費の資産計上タイミング

 

先日無形資産の話だったので、今日も引き続きよく論点になる話を取り上げます。

 

開発費の資産計上について、日本基準では研究開発費を基本的にすべて費用計上しますがIFRSの下ではかの有名な6要件を満たす場合には資産計上しなければなりません。6要件は以下の通りです。

  1. 無形資産を完成させる技術上の実行可能性
  2. 無形資産を完成させ、使用又は売却する意図
  3. 無形資産を使用又は売却できる能力
  4. 無形資産が経済的便益を創出する可能性が高い
  5. 無形資産を完成させ、使用又は売却するための技術、財務及びその他の資源を有している
  6. 無形資産を信頼性をもって測定できる

なお、よく「研究開発費」とひとまとめにされますが、IFRSでは「研究」と「開発」を分けており、「研究」に該当するものについては有無を言わさず費用処理です。両者の定義については基準をご確認ください。

 

上記の6要件を当てはめた場合に、どのように資産計上計上しているか、よくある実例を3つに区分して説明します。

 

①製薬業での新薬開発

有名なのは製薬業での論点で、これについては書籍等でも様々論じられています。

私の経験としては、実際に規制当局から申請が下りた時点で資産化を開始するケースが多いと思います。この時点から資産計上すると、通常資産化終了タイミングは量産開始準備ができたときになるので、ほぼ資産計上される開発費はありません。そのため、比較的保守的な会計処理といえるかもしれません(この点に関しては最後にもう少し補足します)。

なお、ジェネリックや過去に出した薬からの変更の程度によっては、当局からの最終認可が下りる前から資産計上することも認められる可能性はあると思われます。

 

②その他の製造業における新製品開発

 その他の製造業では、自社である意味勝手に開発している段階では「開発」ではなく「研究」と捉えられます。そのため、一般的には取引先企業から「この仕様で製品開発がほしい」という発注を得た時点から資産計上を開始するケースが多いと思われます。そして、資産計上の終了タイミングは①と同じく量産開始時点です。

 また、製造業だと特に製品の大きな概観は変わらないマイナーなモデルチェンジは毎年のように行っているケースもしばしばあるかと思います。そうしたマイナーチェンジは開発の定義を満たさないので資産計上不要、という考え方をされるかもしれません。しかし、その際にも新モデルに組み込まれる部品やパーツ等についてIFRSでいう「開発」の定義を満たす支出も生じ得る点には留意が必要かと思われます。

 

③自社利用ソフトウェアの開発

これもよく話題にあがる論点です。日本基準でも一定の要件を満たす場合に資産計上が認められていますが、IFRSでも資産計上が認められるのかという論点です。

日本基準の要件が「将来の収益獲得又は費用削減が確実な場合」と淡泊な反面、IFRSでは上記6要件が求められているので、厳密に当てはめるとIFRSの方が厳しい(資産計上が遅れる)可能性はあります。

ただ、実務上は日本基準の資産計上開始時点と合わせている(合うように理屈をつける)ケースが多いように思われます。そもそも自社利用なので、ある程度の技術上の実行可能性等が見込まれるので、日本基準の要件を満たすような状況であればIFRSでの6要件も満たすだろうという理屈です。

厳密には資産計上終了タイミングも、日本基準では最後のバグ取り等も含めているケースがあるように思えますが(IFRSでは開発の定義を満たさないので資産計上不可)、そのあたりも重要性の観点からも黙認されていると思います。

 

④補足

今までの経験上、会社の方は日本基準から処理を変えたくない気持ちが強く、開発費の資産計上についてもIFRSへの移行に当たって修正を加えることを望まないケースが多いです。

その気持ちも分からなくはないのですが、投資家の観点からすると、開発費が全く資産計上されていない会社は「見込みのない、また採算のとれないR&Dにつぎ込んでいる」会社とも捉えられると思います。もしくは、6要件の最後を満たさない=自社のR&D支出を適切に管理できていない会社と捉えられるかもしれません。

いずれにせよ研究開発費の総額は開示が求められている中で、まったく資産計上がないと、無形資産や初度適用の注記から資産計上がないことがわかる可能性もあります。計画的なR&Dを行っている会社であれば、何らかの資産計上がされるはずだろうというのが私の思いです。