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経理マンのためのIFRS情報局

IFRS導入プロジェクトに携わる公認会計士が、これまでの経験や新聞記事を基に情報発信

6. マイナス金利について

トランプ氏の大統領選における勝利の影響は色々なところに波及しており、インフレ予測からの国債売り、及びそれに伴う金利の上昇につながっているようです。今日の午後には一時的に長期国債の利回りもゼロを超えたとのことです。

 

さて、金利=割引率は、会計における重要な要素でしばしば議論を呼ぶ論点です。最たるものが退職給付債務の計算に用いる割引率でしょう。

まずIFRSと日本基準との間には有名なGAAP差があります。

IFRS=優良社債(一般にダブルA格以上を想定)

日本基準=国債

の利回りを用います。

 

一時的にマイナスを脱したとはいえ、依然として空前の低金利であり、マイナス金利の場合にも同じように割引くのかという点が論点になります。

 

(1)日本基準における対応

さすがは日本基準、ASBJが以下の文書を公表しています。

企業会計基準委員会:財務会計基準機構

日本基準では国債利回りを使うため、社債を使うIFRSよりも割引率が小さくなる傾向があり、マイナス金利の影響も受けやすいことがこのような迅速な対応につながっているのだとは思います。

この文書上ではマイナスで計算する方法と、ゼロを下限とする方法のいずれも認容するポジションを明確にしています。

文書の中でもストレートに考えればマイナスを用いて計算するであろう旨に言及されていますが、私もゼロで計算するロジックは弱いと感じました。色々理由をつけていますが、実務への配慮が一番の理由と思っています(私は年金数理の専門家ではないので、専門家に言わせると何かゼロで止める明確な理由があるのかもしれませんが)。

 

(2)IFRSにおける対応

つづいてIFRSでの取り扱いですが、例に倣って、日本基準のような親切なガイダンスは出ていないので、基準の書き方から判断せざるを得ません。基準策定時にマイナス金利を想定していなかったことは想像できるものの、基準にマイナスの場合の取り扱いについて何も触れられていない以上、原則通りマイナス金利を用いて計算するものと解されます。ただ、IFRSでは優良社債金利を用いるので日本基準よりはマイナスになる可能性は低いです。

とはいえ、実際に現場で対応していると、優良社債の利回りであってもマイナスになる可能性について耳にすることはあるので留意は必要と思います。

 

また、退職給付会計について定めるIAS19号は、割引率が一定割合変動した場合に、確定給付債務に与える影響額の開示を求めています。そして、変動幅の「一定割合」としは0.5%を用いる事例が多いです。

そのため、すでに金利が0.5%を下回っている場合には、実際の確定給付債務の計算においてマイナス金利の影響を加味する必要がなくとも、開示においてその影響を加味する必要が生じます。

そう考えると、それなりに多くの企業に影響がありそうですよね。

 

感応度分析は企業が想定する範囲内で、パラメーターが変動した場合の影響を分析するものです。そのため、「マイナス金利にはならない」と経営者が考えているなら、マイナス金利を想定しない感応度分析も可能ですが、あまり現実的な対応ではないと思われます。

 

今後、アメリカの金利上昇に引っ張られて日本における長期金利も上昇を続けるのか、それとも日銀の介入によって、やはり低金利(場合によってマイナス金利)が続くのか、案外会計へのインパクトもあるため注視する必要がありそうです。。

 

※今回は退職給付債務だけにフォーカスしましたが、割引率は長期の引当金や減損テストにも影響する大きな論点です。実際にIASBでもリサーチプロジェクトが進められているので、そのあたりにも注目していきたいです。