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経理マンのためのIFRS情報局

IFRS導入プロジェクトに携わる公認会計士が、これまでの経験や新聞記事を基に情報発信

1. 機能通貨について

11月9日の大統領選当日は、どちらが勝利するかの予想が変わるたびに為替相場や株式市場が敏感に反応していましたが、その後は比較的落ち着いた状況になっていますね。

為替相場の変動は企業の業績に大きく影響を及ぼすところであり、経理財務担当者も気にされるところです。

今日は、為替について規定しているIAS第21号の中から、機能通貨(Functional Currency)についてお話しします。機能通貨は在外子会社や在外支店の財務諸表を作成する際に、どの通貨で「記帳するか」を決定するいわば「記帳通貨」と言えます。

 

まずは簡単に定義と基準の規定概要からです。

①定義

機能通貨=企業がキャッシュを生み出し、支出する環境の通貨

 

②機能通貨の決定要因

【Step1】 

  • 売上(販売価格)に影響を及ぼす通貨
  • 仕入(労務費、材料費等)に影響を及ぼす通貨

【Step2】Step1ではっきりしない場合は以下も考慮

  • 財務活動(株式・社債の発行や借入)に用いられる通貨
  • 営業活動で受け取ったキャッシュを内部留保する際に用いる通貨

【Step3】それでもなおはっきりしなければ以下も考慮します

  • 当該在外子会社の親会社に対する依存度が高い(手足となって行動している)
  • 最後は経営者の判断

すごくざっくりですが、このような感じで決定されます。

 

それでは、以下でもう少し踏み込んで説明します。

①そもそも機能通貨が重要な理由

機能通貨は日本基準にない概念ですが、なぜ重要なのかを簡単に説明します。

会計における外貨換算のプロセスは以下の通りです。

外貨建取引 ⇒ 機能通貨への換算 … 為替差損益(純損益)

機能通貨 ⇒ 表示通貨への換算 … 為替換算調整勘定(その他の包括利益

ここで、表示通貨は日本企業の場合には通常日本円です。

その前提で、日本企業が米ドル建ての売り上げを計上したとします。

この企業の機能通貨が日本円であれば、ドル建ての取引から生じる為替の影響は為替差損益としてPL計上されます。一方、この企業の機能通貨が米ドルであれば、外貨建取引として認識されず、次の表示通貨への換算の際に為替の影響が為替監査調整勘定としてOCI(その他の包括利益)に計上されます。

つまり、機能通貨がどの通貨になるかによって、PLとOCIとの間で入り繰りが生じるイメージです。とりわけPLを重視する日本企業にとっては、かなり重要な判断になりますね。

 

②実際どうやって決定しているか

(あくまで経験に基づいたうえでの私見ですが)現地通貨で整理をつけるケースがほとんどです。つまり、日本基準から変更しないということです。

上述した通り、Step1から3までの要件をもちろん検討します。ただ、基準上で定量的な判定基準はありません。そのため、仮に日本企業で米ドル建ての売り上げが多くても、仕入(特に人件費まわり)は円建てが多いこともしばしばです。そこで、Step1だけでは判定が付かないという整理にします。Step2で外貨建てが円建てを上回るというケースは比較的少ないですし、仮にStep2で外貨建てが多くても、絶対的に多いわけでなければStep3に落とし込み、最後は伝家の宝刀「経営者の判断」です。

実際に、売上、仕入(人件費除く)、借入、預金ともにUSドル建てが多い会社がありました。しかし、日本円取引も5~6割程度は占めていて必ずしもUSドルが絶対的に多いというわけではなかったため、最後は経営者の判断により、日本円を機能通貨にしたケースもあります。

ただ、あくまで感覚ですがStep1の段階でUSドルが6割程度を超えてくるようだと、機能通貨が日本円と主張されても監査人としては受け入れがたいように思えます。もちろん、過去の数期間を見て判断すべきです。

 

③実際に問題となったケース

これまでに機能通貨が問題になったケースはいくつかあります。

1つ目は②に記載した、USドル建てが多い会社です。石油・ガス・素材系の会社に比較的多い印象です。

2つ目はメキシコの子会社です。メキシコの現地通貨はペソですが、総じてメキシコの会社はUSドル建ての取引が多いです。ペソが不安定な通貨であるためだと思われますが、メキシコの子会社などではUSドルを機能通貨にするケースがしばしばあります。

最後はスイスでした。スイス企業ではスイスフランではなくユーロ建で取引を行うことがしばしばです。会社としては現地の法規制上スイスフラン建ての財務諸表を作成しなければならないこともあり、スイスフランを機能通貨とするインセンティブが強かったです。結局売上はユーロが多いものの、原価項目はスイスフランが多いこと、及びStep2以降に鑑みてスイスフランを機能通貨としました。

 

ということで、なかなか裁量の余地がある機能通貨についてでした。