経理マンのためのIFRS情報局

IFRS導入プロジェクトに携わる公認会計士が、これまでの経験や新聞記事を基に情報発信

11. 繰延税金資産の回収可能性

 

 先日に続き繰延税金資産関連です。

 繰延税金資産の回収可能性は、日本基準とIFRSで規定が全く異なるため議論になることが多いです。

 

 具体的にどう異なるかというと、日本基準には(今年の改訂を経てもなお)会社区分が設けられており、ある程度システマティックに回収可能性を判断することができます。

 一方で、IFRSで税金について定めているIAS第12号には細かい規定はありません。将来減算一時差異を吸収するだけの課税所得(taxable profit)が発生する可能性が高い(probable)場合に、繰延税金資産を計上すべきとされているのみです。

 (私もそうですが)日本人の多くは規律の下ではうまくハンドルできますが、自由を与えられると途端に思考が停止してしまいがちです。夏休みの宿題でも自由研究に一番苦労したことを私は思い出します。

 

 しかし、実際に日本基準から移行する会社を見てみると、適切な理由を付けたうえで、日本基準における会社区分のもとでの判断基準を準用しているケースも多いです。

 

 ただし、準用するにあたって留意すべき点もありますので、その点について2つほど論点を紹介します。

 

1.会社区分④本則の場合

日本基準では、会社区分④の本則に該当すると、翌期1期分のみの課税所得を基に将来減算一時差異の回収可能性を判定します。

ここで留意すべきは、日本基準の下で、「翌期に発生する将来減算一時差異による加算効果」を加味していないかです。たとえば、翌期に賞与引当金の計上が見込まれていたとします。賞与引当金は実際のキャッシュアウトの時点で減算されるので、引き当てた時点では将来減算一時差異になります。よって、引当金を計上した期には税務上で加算されるのですが、日本基準ではこうした毎期繰り返される一時差異の取り扱いが明確ではないため、繰延税金資産の回収可能性を検討する際に、当該一時差異について加算しているケースもあります。

 

なぜこれが問題になるかというと、IAS第12号第29項(a)に「将来期間において十分な課税所得があるか否かを判断するにあたっては、将来の期間に生じることが予想される将来減算一時差異から生じる課税所得を無視する」とあるためです。

つまり前述の賞与引当金のように、将来発生することを見込んで翌期の課税所得に加算してはいけないということがIAS第12号では明確にされているのです。日本基準でもしこうした加算効果を加味したうえで繰延税金資産の回収可能性を検討していた場合には、繰延税金資産が過大計上されている可能性があるので留意が必要です。

これは区分④の会社だけに影響するものではないのですが、1期分だけの課税所得を考える区分④の会社において、相対的に大きな影響を及ぼすので敢えて区分④の会社における留意点として取り上げました。

 

2.長期性の将来減算一時差異の取り扱い

日本基準では、区分③において、5年超の期間において発生するスケジューリングされた一時差異について、合理的な根拠を示せれば繰延税金資産を回収可能と判断できる規定があります。

IFRSへの移行にあたってこの長期性の将来減算一時差異をどのようなロジックで回収可能と結論付けるかについても論点となり得ます。

ただ、前述したとおり、IFRSの方が裁量の幅が大きいので、むしろこの理由はつけやすいと思われます。

往々にして長期性の将来減算一時差異はそれほど多額ではないと思います。また、そもそも日本基準において区分③に該当している時点で、そこそこの業績を上げている会社ということになります。そのため、IFRS上は「どう転んでも長期性の将来減算一時差異を回収する程度の課税所得は見込まれる」ということをうまく理由づけられれば良いと思われます。

 

 

税金はわかりにくく苦手な方も多い分野であり、まだまだ論点はありますが、今回はここまでとさせていただきます。

10. 未実現利益の税効果

税効果会計は何かと分かりづらい論点が多く、実務でもつまずく事が多い分野です。

 

その中から、今日は未実現利益の税効果について説明します。この会計処理は日本基準とIFRSとの間で差異が生じており、かつASBJが日本基準の改訂も検討している論点なので今回取り上げます。なお、日本での会計処理の見直しは米国会計基準での改正(棚卸資産以外の資産は資産負債法、棚卸資産は繰延法)を契機としています。

 

まず基本の整理です。税効果会計には以下の2つの考え方があります(簡略化した説明です)。

①資産負債法  

会計上の資産または負債と、税務上の資産または負債との間の差異に対して繰延税金を計上する方法

②繰延法

会計上の収益または費用と、税務上の益金または損金との間の差異に対して繰延税金を計上する方法

 

日本基準もIFRSもベースは資産負債法です。これは、PLに計上されないものの税金支払に影響する「その他の包括利益」項目があることも背景です(日本基準でいうと、その他有価証券評価差額金)。

例外が未実現利益の税効果で、日本基準は繰延法、IFRSは資産負債法の考えに基づいています。

 

で、何が違ってくるのか?という点が重要です。

 

以下の前提を置きます。

  • 親会社が子会社に、取得原価80の製品を100で売った = 未実現利益は20
  • 親会社の税率30%、子会社の税率40%
  • 繰延税金資産の回収可能性はある前提
  • 連結修正仕訳は以下の通り

   売上高 100   /    売上原価  100

   売上原価  20   /    棚卸資産  20

 

①資産負債法の場合

資産の帰属先を重視します。

このケースでは、棚卸資産は子会社のものとなっています。

その観点で見ると、子会社にとって、会計上の棚卸資産は購入価格から未実現利益を控除した80です。一方、税務上の簿価は購入価格である100なので、将来減算一時差異が生じています。

そして、この税務上の影響は子会社に帰属すると捉えるのが資産負債法の特徴で、以下の2点に留意が必要です。

  • 未実現利益に係る税効果は子会社の税率で計上

   繰延税金資産  8   /  繰延税金(PL)   8

  • 上記の繰延税金資産の回収可能性は子会社の課税利益をベースに判定

 

②繰延法の場合

繰延法ではPLの帰属で見ます。このケースでは売上原価に会計と税務の差異が生じていますが、売上原価は親会社に帰属します。そのため、

  • 未実現利益に係る税効果は親会社の税率で計上

  繰延税金資産  6  /  繰延税金(PL)   6

  • 上記の繰延税金資産の回収可能性は親会社の課税利益をベースに判定

 

ということで、いずれの考え方を取るかによって、BSやPLへの影響が変わってきます。

 

その他の留意点

  • 日本基準からの移行にあたって、どのように未実現利益に係る繰延税金資産の回収可能性を売却先で判定するのかという点がしばしば懸念されるのですが、少なくとも私の経験上は実際に移行の段階になって、実務上で問題になったことはありません。通常用いている繰延税金資産の回収可能性検討フォームのなかに未実現利益の項目を追加すれば足りるという認識です(その他、IFRSにおける繰延税金資産の回収可能性に関しては改めて記事にしたいと思っています)。
  • 私見ですが、IFRSで資産負債法を採用していることは、ほかのいろいろな面とも整合します。例えば、為替換算です。のれんもそうですが、連結手続上で生じた資産・負債については、帰属先の子会社の資産・負債だという前提の下で換算します(つまり、ドルが機能通貨の子会社を取得したときに生じたのれんについては、のれんをドルベースで捉え、親会社の表示通貨が円であれば毎期末時点の為替レートで円換算することになります)。資産負債法でも棚卸資産の帰属先の税率・回収可能性で税効果会計を適用することは、他の基準とも整合しているのではないかという風に思っています。

9. 保険契約の適用日について

遅くなりましたが先週末にIASB Updateが公表されました。

そこでは新しい保険契約の基準(保険契約に加入している側ではなく保険を付与している側のための基準です)IFRS17号の公表が、2017年3月頃となること、及びその発効日が2021年1月1日となることが決まりました。

 

IFRSでは発効以降に開始する年度が基準の強制適用日となります。そのため、日本企業の多くではこの基準の適用は2022年3月期となります。

かなり先ですね。リースの新基準は今年初めに公表され、2019年が発効日とされています。重要な基準だと基準の公表から3年くらい準備の猶予が与えられますが、保険契約はその中でも長いほうだと思います。

 

最近の基準を見ていると、基準の公表後、適用までの間に色々な議論がなされる傾向があります。日本の保険会社でもこれからIFRSへの移行を目指すのであれば、この新基準に関する今後の議論の動向には留意が必要です。

 

ところで、保険契約の基準は現在、IFRS4号というものが存在しています。この基準はIFRSというより、「IFRSがローカルGAAPの使用を大幅に許容する基準」といえます。このIFRS4号に関しては、今年の9月に金融商品の基準であるIFRS9号との適用関係について改訂が行われています。そこでは、保険業を主たる事業としている会社では、2021年まではIFRS9号の前身であるIAS39号を適用できるとされました。

IFRS9号の発効日は2018年です。

そのため、保険会社においてIFRS17号が発効するまではIFRS4号を適用するのであれば、IFRS9号の発効日を3年引き延ばせる計算です。

初度適用企業も同様なので、これからIFRS適用を考えている3月決算の企業であれば、(通常は2020年3月期までのところ)2022年3月期までIAS39号の使用が認められます。

8. 開発費の資産計上タイミング

 

先日無形資産の話だったので、今日も引き続きよく論点になる話を取り上げます。

 

開発費の資産計上について、日本基準では研究開発費を基本的にすべて費用計上しますがIFRSの下ではかの有名な6要件を満たす場合には資産計上しなければなりません。6要件は以下の通りです。

  1. 無形資産を完成させる技術上の実行可能性
  2. 無形資産を完成させ、使用又は売却する意図
  3. 無形資産を使用又は売却できる能力
  4. 無形資産が経済的便益を創出する可能性が高い
  5. 無形資産を完成させ、使用又は売却するための技術、財務及びその他の資源を有している
  6. 無形資産を信頼性をもって測定できる

なお、よく「研究開発費」とひとまとめにされますが、IFRSでは「研究」と「開発」を分けており、「研究」に該当するものについては有無を言わさず費用処理です。両者の定義については基準をご確認ください。

 

上記の6要件を当てはめた場合に、どのように資産計上計上しているか、よくある実例を3つに区分して説明します。

 

①製薬業での新薬開発

有名なのは製薬業での論点で、これについては書籍等でも様々論じられています。

私の経験としては、実際に規制当局から申請が下りた時点で資産化を開始するケースが多いと思います。この時点から資産計上すると、通常資産化終了タイミングは量産開始準備ができたときになるので、ほぼ資産計上される開発費はありません。そのため、比較的保守的な会計処理といえるかもしれません(この点に関しては最後にもう少し補足します)。

なお、ジェネリックや過去に出した薬からの変更の程度によっては、当局からの最終認可が下りる前から資産計上することも認められる可能性はあると思われます。

 

②その他の製造業における新製品開発

 その他の製造業では、自社である意味勝手に開発している段階では「開発」ではなく「研究」と捉えられます。そのため、一般的には取引先企業から「この仕様で製品開発がほしい」という発注を得た時点から資産計上を開始するケースが多いと思われます。そして、資産計上の終了タイミングは①と同じく量産開始時点です。

 また、製造業だと特に製品の大きな概観は変わらないマイナーなモデルチェンジは毎年のように行っているケースもしばしばあるかと思います。そうしたマイナーチェンジは開発の定義を満たさないので資産計上不要、という考え方をされるかもしれません。しかし、その際にも新モデルに組み込まれる部品やパーツ等についてIFRSでいう「開発」の定義を満たす支出も生じ得る点には留意が必要かと思われます。

 

③自社利用ソフトウェアの開発

これもよく話題にあがる論点です。日本基準でも一定の要件を満たす場合に資産計上が認められていますが、IFRSでも資産計上が認められるのかという論点です。

日本基準の要件が「将来の収益獲得又は費用削減が確実な場合」と淡泊な反面、IFRSでは上記6要件が求められているので、厳密に当てはめるとIFRSの方が厳しい(資産計上が遅れる)可能性はあります。

ただ、実務上は日本基準の資産計上開始時点と合わせている(合うように理屈をつける)ケースが多いように思われます。そもそも自社利用なので、ある程度の技術上の実行可能性等が見込まれるので、日本基準の要件を満たすような状況であればIFRSでの6要件も満たすだろうという理屈です。

厳密には資産計上終了タイミングも、日本基準では最後のバグ取り等も含めているケースがあるように思えますが(IFRSでは開発の定義を満たさないので資産計上不可)、そのあたりも重要性の観点からも黙認されていると思います。

 

④補足

今までの経験上、会社の方は日本基準から処理を変えたくない気持ちが強く、開発費の資産計上についてもIFRSへの移行に当たって修正を加えることを望まないケースが多いです。

その気持ちも分からなくはないのですが、投資家の観点からすると、開発費が全く資産計上されていない会社は「見込みのない、また採算のとれないR&Dにつぎ込んでいる」会社とも捉えられると思います。もしくは、6要件の最後を満たさない=自社のR&D支出を適切に管理できていない会社と捉えられるかもしれません。

いずれにせよ研究開発費の総額は開示が求められている中で、まったく資産計上がないと、無形資産や初度適用の注記から資産計上がないことがわかる可能性もあります。計画的なR&Dを行っている会社であれば、何らかの資産計上がされるはずだろうというのが私の思いです。

7. ネーミングライツ等

ゾゾタウンを運営するスタートトゥデイが、千葉ロッテマリーンズの本拠地QVCマリンフィールドの命名権を取得したそうです。また、楽天バルセロナにスポンサー出資するなど、企業は常になんらかの方法で広告宣伝のための支出をしています。

 

広告宣伝に関する支出の取り扱いは、日本基準とIFRSで大きく異なります。

 

日本基準では、一時に費用処理するケースもあるでしょうが、いったん支出額を前払費用として資産計上した上で、一定期間にわたって費用に振り替える処理もしばしばです。

一方のIFRSでは、「広告宣伝及び販促活動に係る支出」は無形資産の要件は満たさず、即時費用処理される旨が定められています(IAS38.69)。

この典型例として挙げられるのが通販のカタログです。カタログについては、あくまで自社が広告宣伝目的で使うしか用途はないので、カタログを入手できるようになった時点(平たく言えば印刷会社が出荷できるようになった時点)で全額費用処理になります。棚卸資産等にはなりません。

他にもCMなどがありますがCM製作費も(どれだけの期間CMが流れるかにかかわらず)CM完成時に全額費用処理です。

 

では、一般的に期間の定めがあるネーミングライツの取得やスポンサー支出も一括費用処理なのでしょうか。

 

私見ですが広告宣伝目的だからといって、すべての支出が一時点で費用処理とは思えません。また、IAS38は「広告宣伝目的の支出は無形資産の要件を満たさない」と断じていますがそうとも限らないと思われます。

なぜならば、そうした支出であっても、切り売りができて(識別可能で)購入する側にとっても価値があるのであれば無形資産の定義は満たしうるためです。

特にネーミングライツは(契約にもよるかもしれませんが)譲渡も可能で資産価値があるでしょう。仮に「ゾゾタウン」の名称を付けたまま使わなければならない譲渡があるならば、(そもそも買う会社がないかもしれませんが)完全に広告宣伝目的であり資産価値も疑わしくなります。しかし、買い受けた会社がその時点で自分の好きな名前を付けられるのであればネーミングライツ自体の資産価値はあると考えられます。

つまり、無形資産計上も認められると思います。

スポンサー支出も同様で、楽天以外にもバルセロナとスポンサー契約したい会社は多々あるでしょうし、バルセロナの選手が会社のロゴを付けて試合をするという、ある意味明確なサービスを受けているので、その期間に応じて費用処理というのも妥当と思われます。

前掲したCMについても、放映枠に関する支出は、広告宣伝目的の支出ですが、こちらも譲渡価値はあるでしょうから一定期間にわたって費用計上という処理も認められると私は思っています。

 

IFRSになると何かと一時点で費用処理が求められる広告宣伝支出ですが、一時点で費用処理を求めている背景に立ち返って個別に考えてみると、資産性のある広告宣伝支出というものも有りうるように思えます。

 

6. マイナス金利について

トランプ氏の大統領選における勝利の影響は色々なところに波及しており、インフレ予測からの国債売り、及びそれに伴う金利の上昇につながっているようです。今日の午後には一時的に長期国債の利回りもゼロを超えたとのことです。

 

さて、金利=割引率は、会計における重要な要素でしばしば議論を呼ぶ論点です。最たるものが退職給付債務の計算に用いる割引率でしょう。

まずIFRSと日本基準との間には有名なGAAP差があります。

IFRS=優良社債(一般にダブルA格以上を想定)

日本基準=国債

の利回りを用います。

 

一時的にマイナスを脱したとはいえ、依然として空前の低金利であり、マイナス金利の場合にも同じように割引くのかという点が論点になります。

 

(1)日本基準における対応

さすがは日本基準、ASBJが以下の文書を公表しています。

企業会計基準委員会:財務会計基準機構

日本基準では国債利回りを使うため、社債を使うIFRSよりも割引率が小さくなる傾向があり、マイナス金利の影響も受けやすいことがこのような迅速な対応につながっているのだとは思います。

この文書上ではマイナスで計算する方法と、ゼロを下限とする方法のいずれも認容するポジションを明確にしています。

文書の中でもストレートに考えればマイナスを用いて計算するであろう旨に言及されていますが、私もゼロで計算するロジックは弱いと感じました。色々理由をつけていますが、実務への配慮が一番の理由と思っています(私は年金数理の専門家ではないので、専門家に言わせると何かゼロで止める明確な理由があるのかもしれませんが)。

 

(2)IFRSにおける対応

つづいてIFRSでの取り扱いですが、例に倣って、日本基準のような親切なガイダンスは出ていないので、基準の書き方から判断せざるを得ません。基準策定時にマイナス金利を想定していなかったことは想像できるものの、基準にマイナスの場合の取り扱いについて何も触れられていない以上、原則通りマイナス金利を用いて計算するものと解されます。ただ、IFRSでは優良社債金利を用いるので日本基準よりはマイナスになる可能性は低いです。

とはいえ、実際に現場で対応していると、優良社債の利回りであってもマイナスになる可能性について耳にすることはあるので留意は必要と思います。

 

また、退職給付会計について定めるIAS19号は、割引率が一定割合変動した場合に、確定給付債務に与える影響額の開示を求めています。そして、変動幅の「一定割合」としは0.5%を用いる事例が多いです。

そのため、すでに金利が0.5%を下回っている場合には、実際の確定給付債務の計算においてマイナス金利の影響を加味する必要がなくとも、開示においてその影響を加味する必要が生じます。

そう考えると、それなりに多くの企業に影響がありそうですよね。

 

感応度分析は企業が想定する範囲内で、パラメーターが変動した場合の影響を分析するものです。そのため、「マイナス金利にはならない」と経営者が考えているなら、マイナス金利を想定しない感応度分析も可能ですが、あまり現実的な対応ではないと思われます。

 

今後、アメリカの金利上昇に引っ張られて日本における長期金利も上昇を続けるのか、それとも日銀の介入によって、やはり低金利(場合によってマイナス金利)が続くのか、案外会計へのインパクトもあるため注視する必要がありそうです。。

 

※今回は退職給付債務だけにフォーカスしましたが、割引率は長期の引当金や減損テストにも影響する大きな論点です。実際にIASBでもリサーチプロジェクトが進められているので、そのあたりにも注目していきたいです。

5. IFRSにおける減価償却方法について

日本基準ではご存知の通り、減価償却方法は定率法を採用する会社がほとんどです。

これは、日本基準においては減価償却方法が会計方針の選択と捉えられていることにも起因しています。ある意味任意で定率法を選択でき、税務メリットがあるので多くの日本企業で定率法が採用されています。

 

一方、IFRSでは定額法が標準仕様、ほぼデフォルトです。これは日本の任意適用企業だけでなく、海外の企業でも同様なのである意味定額法がグローバルスタンダードです。

IFRSでは減価償却方法は、会計上の見積りと捉えられており、経済的便益の費消パターンを反映する方法を採用しなければなりません。この見積りを行う時には、以下に示す耐用年数の決定時の考慮事項を加味します。

  • 資産の予想される使用量
  • 予想される物理的な自然減耗
  • 技術的、又は経済的な陳腐化
  • 法律等による制約

これだけ見るとピンときませんが、何年使えるかを検討する際には「どのように減っていくか」も同時に考えているはずだということです。帳簿価額を縦軸、年数を横軸にとって帳簿価額の減価を追う場合、Y切片から始まりX切片(=耐用年数)に到達する線を引くことになります。このときの線こそが減価償却方法を表します。

 

さて、日本基準で定率法を採用したままIFRSに移行する場合、減価償却方法についても原則に従って取得時まで遡及修正することが求められます。大変です。もちろん頑張って遡及することもできるでしょうが、他の対応方法として2つ考えられます。

1. 日本基準で早めに定額法に変更しておく

2. IFRS第1号のみなし原価の免除規定を使う

 

1.は、日本基準でIFRS移行日よりも前に定額法に変更しておくことで、移行日時点における遡求修正の影響を軽減する方法です。実際に多くの任意適用企業がこの方法を採用していますし、しばしば「日本基準で定額法に変更した企業はIFRS任意適用を視野に入れている」と言われることもあります。

また、移行日よりも前に、というのがポイントで早ければ早いほど影響を軽減できます。なぜなら、日本基準では減価償却方法の変更は、(会計方針の変更であるにもかかわらず)遡求修正されません。そのため、日本基準上で移行日直前に減価償却方法を変更したところで、IFRSに従って遡求修正した場合とは大きな差が生じる可能性が高いためです。そのため、極力移行日よりも前に日本基準で定額法に変更しておくことで、移行日に遡求修正した場合の影響を軽減できるのです。あとは重要性でさばけるかどうかということになります。

なお、日本基準で会計方針を変更するのもなかなかハードルが高いかもしれませんが、そこは担当の会計士にご相談ください。

 

2.のみなし原価については、IFRS1号の遡及免除について書くときに詳細は説明したいのですが、ざっくりいうと移行日時点の公正価値で測定する方法です。公正価値の測定自体が大変なので、あまり免除規定になっていない感もあるのですが、「つまみ食い」ができたりと案外使い勝手は良いです。そのあたりもまた改めて。

 

いずれにせよ、定額法がグローバルにも一般的ですし、日本の任意適用企業でも(一部の資産を除いて)定額法がほぼすべての資産に適用されています。減価の態様が定率法だということも不可能ではないのかもしれませんが、比較可能性の観点からは定額法にしておくことが無難です。また、先例がないので会社としても説明しがたく、また監査人も受け入れがたいように思えます。

そのため、とりわけ有形固定資産が重要性を有するような企業においては、早めに日本基準においても定額法に変更しておく(もしくは移行日に備えて定額法に修正した金額を出せるようにしておく)ことが必要となってくると考えられます。