読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

経理マンのためのIFRS情報局

IFRS導入プロジェクトに携わる公認会計士が、これまでの経験や新聞記事を基に情報発信

18. のれんの償却について

日本基準とIFRSとの差異でもっとも頻繁に話題にあがるのがのれんの償却だと思います。

先日も日経新聞紙上で上場企業ののれん総額が29兆円になったという報道もありました。また、一つの要因として、のれんの定期償却が求められないIFRS適用企業が増えたということも挙げられていました。たしかに、のれんの金額が多い製薬業や情報通信業ではIFRS適用が進んでいるという側面はあり、のれんの定期償却をしないでよいということがIFRS適用のインセンティブになっていることは否定できないと思います(その代わり、毎期減損テストが求められることや、注記の面で負担は日本基準よりもはるかに多いですが)

 

さて、日本の利害関係者はしばしば、のれんを定期償却することのメリットを国際的な場でもしばしば主張しています。主張の根拠として、自己創設のれんとのすり替えを防ぐことなどが挙げられていますが、私見では、IFRSがのれんを定期償却する方向で改訂される見込みは当面ないと思っています。

主な理由は以下の2つです。

 

1.USGAAPとの整合性

まずUSGAAPでもIFRSと同様に、減損のみのモデルで定期償却はされません。これは大きいハードルで、IASBとFASBがこれまで基準開発の方向性で歩みを一にしてきたことに鑑みると、これから両者が足並みをそろえて定期償却に向かう見込みはかなり低いです。

 

2.IASB内での直近の議論

もう一つは、IASB内の議論です。今月(2017年3月)のIASB会議で、のれんの減損についてのリサーチプロジェクトに関するアップデートがあります。このアジェンダペーパーを見ると、たしかにのれんの定期償却と減損テストの議論は掲載されています。しかし、その優先度はどうも低く見られているようで、まずは減損テストが有効に機能するような改訂をすることや、効果的な開示を設けることに重きが置かれているように見受けられます。

 

以上のとおり、JMISでものれんの定期償却をカーブアウトするなど日本としての意見発信が行われており、その論拠も一定の合理性はあると思います。

一方で、「IFRSも定期償却する方向で改訂されるのか」という疑問を呈されることもしばしばあるのですが、答えは「No」だと私は思っております。仮に改訂がされるにしても、かなりの期間を要することは目に見えているので、当面はこのGAAP差が存在し続けることになるものと思われます(メンツもあるのでまさか日本基準を今更IFRSに寄せることもできないでしょうし)。

17. 2017年1月 IASBアップデート

2017年最初のIASBが開催され、アップデートも公表されていました。

今月の会議はあまり目ぼしい議論はないかな、という印象ですが簡単に紹介します。

 

1.IFRS13「公正価値測定」の適用後レビュー

適用後レビューは、基準の適用後数年をおいて行われます。その基準の適用がスムーズにいっているかを関係各位から意見を募集して、必要に応じて基準の改訂を行うプロセスです。今月のIASBではそれを行うためにプロセスの確認が主な内容で、特段の決定はなかったようです。

 

2.Symmetric Prepayment Option

負債性金融商品において、発行者と保有者の双方が償還オプションを有しているようなケースにおいて、SPPIテスト(契約上のキャッシュフローの特徴テスト)を満たすかどうかという論点です。IASBはこうした金融商品に対してどのようにSPPIテストを適用すべきかを明確にするように、IFRS第9号「金融商品」を改訂するようです。

まず日本においは本件に該当するような金融商品が話題になったことはないので今回の改訂の動きも影響は限定的と思われます。それよりも、個別の金融商品に対して基準を改訂することとなった方が個人的には驚きです。

 

3.会計方針と会計上の見積り

このプロジェクトは会計方針の変更と見積もりの変更の区別を明瞭にしようというものです。たしかに実務においてもどちらに該当するのか迷う局面があるので、個人的には有用なプロジェクトだと思っています。

すでに公開草案が公表されており、それに対して集められた意見を検討しているところです。今月のIASBでは比較的軽微な文言の修正を加えることを決定したようです。

 

4.保険契約

保険の基準が近々公表されますが、保険契約の基準についてもTRG(Transition Resource Group)が組織されるとのことです。過去には収益認識(IFRS15)と金融商品(IFRS9)においてもTRGが組成されました。

日本基準ではこういう組織は考えられませんし、過去にTRGが組成された基準を見てみると、いずれも喧々諤々議論したうえでなお、基準の公表後にさらに議論をしています。基準の開発過程で本来は議論しておくべきであり、本当に有意義な組織なのか個人的には少し疑問です。

また、ワークプランも更新され、今後6か月以内に基準が公表されることとなっていました。従前は今年の3月までに最終基準が公表されるはずだったので、また基準の公表が遅れることになりました。

 

5.概念フレームワーク

アップデートの記事としては一番長かったのですが、概念フレームワークが変更されても即座に実務に影響があるわけではないので、ここでは詳細は避けます。議論の内容は、測定と、他の基準で概念フレームワークを参照している箇所に関する修正でした。

 

16. 2017年から適用される基準について(IAS第7号の改訂)

 

 2017年から適用される基準の第2弾です。こちらはIAS第7号「キャッシュ・フロー計算書」に係る改訂です。

 前回のIAS第12号の改訂は、明確化だったので既にその通りにやっている会社には影響がありませんが、このIAS第7号の改訂は開示要求の追加なので、影響の程度にこそ差はあるものの、ほぼすべての会社に影響すると考えられます。

 

 改訂で追加される開示要求の内容自体は簡単で、(ものすごくかみ砕きますが)

「財務活動に係る負債の変動がよくわかる開示」

が求められます。

 

 なお、「財務活動に係る負債」とは、キャッシュ・フロー計算書においてキャッシュの変動が「財務活動に係るキャッシュ・フロー」に分類される負債とされています。つまり、借入金や社債、リースなどが想定されます。また、財務活動に係る負債をヘッジするための金融資産も含まれます。

 また、変動を示すにあたっては、キャッシュ・フローの変動だけでなく、企業結合による増減や外貨換算による増減、さらには公正価値測定による変動といった、キャッシュを伴わない増減についても明示することが求められています。 

 上記の開示規定を満たすための方法について、基準では、期首から期末の増減表を開示することを一つの例として挙げています。むしろこれだけの要求を満たす方法として増減表以外の開示が思いつきませんが。。

 

 ここまでつらつら書いたものの、この改訂で要求されているのは

「借入金や社債といった財務活動に係る負債(及びそれをヘッジする金融資産)について、(現金の増減を伴わないものも含めて)増減要因を明確にした増減表を追加で開示する」

ことです。

 BSとキャッシュ・フロー計算書とのリンクが明確になるように、ということも求められているので、この増減表の項目は、金融商品注記の内訳と同じ区分を用いるのがよいかと思います。そうすると、BS⇒金融商品注記⇒キャッシュ増減の注記⇒キャッシュ・フロー計算書という形で、相互の関連性が説明できるようになるのではないでしょうか。

 

 四半期についてはIAS第34号が併せて改訂されているわけではないので、こうした開示は要求はされず、通常は年度の有価証券報告書から新たに開示が求められることになります。

 また、比較期間の開示が求められていないので、その点は作成者としてはありがたいですね。

15. 2017年から適用される基準について(IAS12の改訂)

 前回の記事に書きましたが、2017年(3月決算であれば2018年3月期)から適用される基準ついて簡単に説明します。案外説明が長くなりそうなので、今日は1についてのみです。

  1. 未実現損失に関する繰延税金資産の認識
  2. IAS第7号「キャッシュ・フロー計算書」の改訂

1.未実現損失に関する繰延税金資産の認識

 誤解を恐れず、かつ日本基準になれた方にわかりやすく言うなら「その他有価証券の評価損によって将来減算一時差異が生じた場合の繰延税金資産の回収可能性をどう考えるか」という点が明確化されました。

 例えば、取得価額1,000の社債を保有しており、IFRS上では毎期公正価値で評価して評価差額をPL計上するものに分類していたとします。この社債が翌期に1,000で償還されるものの、当期末に当該社債の公正価値が900に下落した場合、当期末において100の将来減算一時差異が生じます。この100の解消についてどのように考えるか、という点の明確化です。

 翌期の税務申告上の課税所得が50だったとしましょう。IFRSにおける将来減算一時差異の解消の検討方法は、まず将来加算一時差異があり、その加算タイミングと将来減算一時差異の減算タイミングがあっていれば、無条件に将来減算一時差異を解消できる=繰延税金資産を計上、ということになります。次に将来加算一時差異で充当できない将来加算一時差異については、課税所得で充当できるかどうかを検討します。

 ここでいう「課税所得」について、将来減算一時差異の減算前の金額であることが明確化されました。つまり、この例では税務申告上の課税所得が50なので、将来減算一時差異による減算効果を無視すると、繰延税金資産の回収可能性を検討する上での課税所得は150になります。よって、この例では将来減算一時差異全額について繰延税金資産を計上することができるということになります。

 なお、将来加算一時差異についても同様です。将来加算一時差異は、課税所得と将来減算一時差異を比較する前に、将来減算一時差異の解消に充てられるかを検討されています。そのため、課税所得をもって将来減算一時差異を解消できるか否かを検討する上での「課税所得」においては、将来加算一時差異の効果も無視する(=税務申告上の課税所得からマイナスする)ことになります。

 

 本改訂は、上述の通り、負債性金融商品の公正価値測定によって生じる未実現損失に端を発する改訂ではあります。しかし、将来減算一時差異が解消できるかどうか、つまり繰延税金資産の回収可能性を検討する際における「課税所得(taxable profit)」が、実際の納税申告計算における「課税所得」とは異なるという点で示唆を与えてくれる改訂ではあるかと思われます。

14. 2017年におけるIFRSの動き

 2016年はリース基準が公表されたことが一番大きな話題となりましたが、2017年はどうでしょうか。

 現在のIASBによる作業計画通りに進めば、保険会計に関する基準が2017年の3月頃には公表される予定です。また、概念フレームワークについても今年中には最終版が公表されると見込まれるので、今年で大きなプロジェクトは一区切りとなりそうです。

 また、今年から適用される基準も少なく、未実現損失に係る繰延税金資産の認識、及び開示イニシアティブにおけるキャッシュ・フロー計算書に係る注記の追加がメインです。両基準については日を改めて説明しますが、いずれも大きな作業や準備が必要になる基準でもないと思われます。

 一方、2018年にはいよいよ収益認識と金融商品の新基準が強制適用になるということで、今年はちょうどその準備に向けた時間を取るための小休止のような年になりそうです。

 

 今後の作業計画についてはIASBから5年分の作業計画についてのリリースもありました。これによると、従前から話題に上がっている共通支配下の企業結合や割引率だけでなく、日本の関係者が気にしておられるのれんの減損についてもこれから議論の俎上に載るとのことです。ただ、この作業計画に載ったとしても、具体的にいつまでに基準の改訂を行うかといった計画までは示されていません。もし仮にのれんについてIFRSが償却という方向に舵をきることになるとしても、その方向性が定まるまでに数年を要し(個人的にはこの5年間で決まるのかどうかも疑問視しています)、さらに基準適用までには数年の準備期間が与えられるので、どんなに早くとも向こう5年のうちにのれんの償却がIFRSで必要になるということはないだろうというのが私見です。

 あとは、実務上は持分法の適用においていくつか難点があり、IASBもその点は認識しているはずなのに、持分法が直近の作業計画含められなかったのが個人的に残念でした。

IFRS - 2015 Agenda Consultation

13. IFRIC22号 IAS40号の改訂 年次改善2014-2016年サイクル

本日、一気に3つの基準が公表されました。解釈

指針書1つ、基準の改訂が2つです。

以下、簡単にエッセンスだけご紹介します。いずれも実務上はさほど問題にならないのかとは思います。

 

①IFRIC22号 外貨換算と前受・前払対価

【改訂内容】

外貨建ての前払金や前受金の換算は、キャッシュの受け払い時点の直物為替相場で行い、事後的に再換算しないことが定められました。

固定資産取得のための前払金や、収益に係る前受金については、実際に固定資産を取得した時点や収益に振り替える時に再換算はしないことが明確にされています。日本基準と同じ処理です。

【適用日等】

2018年1月1日以後開始事業年度から適用され、早期適用も可能です。

 

②投資不動産の振替

【改訂内容】

投資不動産から他の資産(固定資産や棚卸資産)への振替、もしくは逆に他の資産から投資不動産に振り替えられる場合に関する改訂です。IAS40.57には振替が妥当なケースが挙げられていましたが、あたかも挙げられた状況のみが振替えに適格であるかのような書き方がされていました。今回の改訂で、あくまで57項の状況は「事例」であることが明確にされています。(そもそも重要な投資不動産を有している会社が現時点では少ないので、さほど問題にならない改訂かな、という印象です)

【適用日等】

2018年1月1日以後開始事業年度から適用され、早期適用も可能です。

 

③年次改善2014-2016年サイクル

【改訂内容】

(1)IFRS第1号に一時的な免除規定(E3-E7)がいくつか規定されていましたが、役目を終えたため削除されました。

(2)子会社、JV、関連会社に対する持分が、売却目的保有(又は処分グループの一部)に該当する場合のIFRS12号の規定についてです。こうした状況では、要約財務情報の開示規定(IFRS12.B10-B16)の対象外になるものの、その他のIFRS12号の規定は適用されることが明確にされました。

(3)ベンチャーキャピタル等が関連会社(及びJV)投資を有する場合、各投資の当初認識時に、公正価値測定するかどうかを各投資ごとに選択できることを明確にしました。また、投資企業ではない会社(仮にA社とします)が、投資企業である関連会社又はJV(B社)を有する場合、A社は、B社を持分法で取り込む際に、B社が保有する投資に適用した公正価値測定を維持するか、持分法を適用するか選択することができる規定があります(IAS28.36A)。この選択が各投資企業ごとに行えることも明確にされています。

【適用日等】

(1)及び(3)は2018年1月1日以後開始事業年度から適用されますが、(2)は2017年1月1日以後開始事業年度から適用とされています。

 

大きなプロジェクトは概ね終わっていますが、こうした細かい改訂は今後も続くので、適宜ご紹介します。

12. 減損損失に関する基準間の考え方の差異

「減損」と聞いて、どのようなイメージを抱くでしょうか?

日本企業の方は「投資の失敗」をイメージし、経営責任にも繋がりうる一大事と捉えるかもしれません。

 

一方、IFRSにおける金融資産以外の減損損失に関する基準であるIAS第36号では、そこまで大げさなものではなく、むしろ経常的に発生するものと捉えられています。

 

こうした両者の認識差が表れているのが以下の2つの基準差異です。

1. 減損認識までの2ステップアプローチ vs 1ステップアプローチ

2. 減損の戻入れの有無

 

1.について

日本基準は減損の兆候有りと判定された場合、割引前キャッシュフローと帳簿価額を比較することで、減損の確実性を担保します。割り引く前のキャッシュフローでも帳簿価額を下回るくらいだから減損の発生も確実性が高いだろうという発想です。

一方、IFRSは兆候があれば即座に測定プロセスに入り、割引前キャッシュフローと帳簿価額を比較する手間をとりません。

これは言ってみれば、IFRSがそれだけ減損を気軽に計上するものと捉えているためです。

 

2.について

2についても然りです。日本基準は、確実性を期して計上した減損損失について、戻し入れを認めていません。そのため、日本基準を適用している会社にとっては、減損損失の認識は深刻で取り返しのつかないものという認識がもたれているのだと思います。

一方、IFRSでは(のれん等の一部資産を除いて)戻し入れを認めています。減損損失の認識と同様に、「減損がなくなっている兆候」があれば、戻し入れを認識・測定します。これもまた、IFRSが減損を気軽に捉えている証拠と理解しています。

 

 

過去に「IFRSは全面時価会計だ」という誤解がまかり通っていた時期もありました。*1

これは極論過ぎて私もいかがなものかと思いますが、減損会計については多少は的を射ているようにも思えます。というのも、IFRSでは固定資産を「価値が下がったら減損、価値が戻れば戻し入れ」といった具合に、価値の増減を示す事象が生じることに応じて、まめに公正価値測定しているとも捉えられるためです。

そのため、日本基準とは大きな感覚の違いがあるように思えます。こうした意識の差が埋まらず、減損はとても悪いものだという日本基準の発想の名残により、IFRSに移行しても減損の認識が遅延する傾向がないでしょうか。IFRSにおける減損は、ちょこちょこと経常的に発生し、なくなったら戻し入れればよいものです。日本人にとって「減損」はあまりにもマイナスイメージが強いので、もしかしたら語感としては評価損という方がしっくりくるのかもしれません(英語ではimpairmentです)。

 

減損は、日本だけでなく欧州も含めた各国で様々な側面から問題視されており、欧州規制当局のESMAも過去に何度かレポートを提出しています。そのあたりも、追々ご紹介します。

*1:各企業の有報の「重要な会計方針」を見ても分かるように、IFRSでも貸借対照表計上額は基本的には原価ベースの金額です